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海賊版 むかしむかしあるところに、そうですね、ナスダイムの外れあたりに、イヌマーというかわいらしいエルフがおりました。イヌマーは夫婦仲の良い両親と幸せに暮らしていました。お父さんが一週間に一度は話す、お父さんとお母さんは運命の湖で狩り中に運命の出会いをしたんだよ、というあくびがでそうなのろけ話には少しうんざりしていましたが、それでもイヌマーはやさしくて美しい父母を愛していました。 ところが数年前の冬のこと、その運命の湖で散歩をしていたお母さんが湖の主のフォレストマネークに殴られて亡くなり、お父さんは寂しさと悔しさのあまり気が触れたのか、翌年の春にニューハーフのタルンと再婚してしまいましたとさ。めでたしめでたし。 あぶないあぶない、終わるところでした。お父さんが再婚した相手のタルンには、3人の連れ子がいました。みんなタルンです。こちらはニューハーフではありませんでしたが、うち一人にはゲイの気がありました。 再婚後しばらくして、イヌマーのお父さんは過労で倒れてそのまま帰らぬ人となってしまいました。臨終間際、「タルンが・・・タルンが来る・・・」とうわ言のように繰り返していたそうです。 お父さんが亡くなってから、4人のタルンたちは我が物顔でイヌマーの家で好き勝手なことをしました。遺産で高価な武器を買ったり、タルンを連れ込んだりタルンを連れ込んだり。イヌマーには粗末な服や食べ物しか与えられず、日々雑用を命じられ、天井裏に住まわされました。 陰湿ないじめも受けました。スカート部分を取り除いて更に露出の多くなった魔道士のローブを着せられて街中を歩かされたり、ププから刈り取ったもこもこした毛だけで裸の体のあちこちを隠してポーションの生産をさせられたり、更にウサ耳をつけてププの真似事をさせられたり、遊撃士協会という人気の無いギルドのメンバー勧誘をさせられたり・・・。その姿を見てタルンたちはゲハゲハと笑うのです。 イヌマーは辛くて悲しくて、毎晩天井裏でしくしくと泣いて過ごしておりました。階下では義母と義兄が、連れ込んだタルンといちゃいちゃしている音が聞こえてきて吐きそうになりました。 ある日のこと、セリティプラ城で王子様の誕生日パーティが開かれることになり、その招待状が町の全戸に届けられ、町は喜びで沸き返りました。イヌマーの家にも招待状が送られましたが、タルンの義母はイヌマーの分をびりびりと破って食べてしまいました。 「お前が王子様のパーティに出るなんて身の程知らずだよ。それに、そんな汚いなりで人前に出ようものなら我が家の恥さ。ここで短パン作りの内職でもしてな!」 そう吐き捨てるように言うと、義母と義兄たちはゲハハハハ、と下卑た笑い声を上げてイヌマーを嘲りました。 パーティの当日、4匹のタルンは思い思いの武器を手に、しっかりと防具を着込んで城へと出かけて行きました。それというのも王子様はちょっと変わった方で、誕生日パーティを闘技場で開催されるというのです。そこで武道会を行い、勝ち抜いた者が男性であった場合には戦闘指揮官の座を、女性であった場合には王子と結婚できる権利を得られるというイカれたパーティでした。 家に一人取り残されたイヌマーは、着ていく装備も招待状もないので仕方なくタルン用の短パンを作っていました。 「あぁ、今頃はお義母さまやお義兄さまたちは楽しくパーティを過ごしているのでしょうね・・・。でもなんであんな重装備をしていったのかしら」 招待状を読んでいないイヌマーは、お城では豪華なダンスパーティでも開かれているのだろうと思っていました。そうしてうつろな目でパンツを縫っているうち、チクリと針で指を刺してしまいました。 「いたっ・・・」 刺した人差し指の腹には、ぷくっと小さな血の玉ができました。イヌマーは急にひどく悲しくなり、泣き出しそうな表情でその指をくわえました。どこか色っぽい姿です。 「はぁ・・・はぁ・・・」 イヌマーは何者かの気配を感じてふと顔を上げると、カーテンの陰に一匹のポムがいるのが見えました。青地に黄色い星柄のパーティハットと忍者マスクを被り、なにやら興奮した黒目がちの瞳で、こちらをずっと見ています。 「きゃっ・・・!誰!?」 イヌマーは思わず後ろに飛びのきました。 「落ち着いて!怪しいものではありません!」 「むぐっ」 ポムが手に持った羽根付き杖を振ると、叫ぼうとしていたイヌマーの口がぱくっとふさがりました。おまけに体の自由も効きません。 「むぐ、むぐぅ?」 「私は魔法使いです」 カーテンの陰からポムが出てきました。なにやら大きな袋を背負っています。 「むぐぐぐ?」 「あなたがあまりにも可哀想なので、救って差し上げに参りました」 「ふむぐ」 「嬉しいですか?嬉しいでしょう。しばらく前からずっとあなたの生活を見ておりました。継母や異母兄弟にいじめられてこき使われ・・・ううっ、気の毒に・・・下着もあんな薄くて破れそうなものしか・・・」 「むぐぁっ!?」 「おっと・・・口が滑ってしまったかもしれませんね。まぁそんなわけで、いろいろ収穫もあったしあなたにお礼をと思いまして」 「むむ・・・」 「お城のパーティに行きたいのですね?では、ププとカボチャを集め・・・るのはめんどくさいでしょうからこちらで用意しました。さぁ庭に出ましょう。動けない?なぁに、私が負ぶって行ってあげますよ。ふひひ。ああ、背中に当たるこの感触が・・・」 「んむーんむむっ」 庭に出ると、魔法使いはイヌマーの体を自由にし、魔法でカボチャをソリに、ププをトナカイ風味に変えました。 「なんでトナカイとソリ・・・?」 「クリスマスが近いからです。今年のクリスマスはどんなイベントが来るのでしょうかねぇ。それはそれとして、あなたの姿も変えてあげましょう」 ポムが杖を一振りすると、イヌマーはかわいらしいメイド姿になりました。 「なんですかこの服は・・・」 「趣味です。よくお似合いですよ」 「こんなのじゃお城の舞踏会に出られません!」 「武道会に出るのですか?メイドに紛れて見学でもいいかと思うんですが」 「舞踏会で王子様はお妃となる人を決められるという話をちょっと耳にしたもので・・・。見学じゃしょうがないんです。参加しないと・・・!私、ちゃんと着飾れば結構いけると思うんですよ!」 「むむ・・・案外自信家なんですね。しかしあまり腕力があるようには見えない・・・どうしても行きたいのですか?」 「どうしても行きたいのです。王子様と結婚してこの家から出たいのです」 「なるほど・・・じゃあ仕方がありませんね。さて、どんな魔法をかけよう・・・」 その時、にわかに人の怒鳴る声がしました。 「いたわ!あいつよ!あのでかい帽子とマスク!」 「ぬぁっ、しまった見つかった!」 「え?」 なにやら怒った様子の人々、主にエルフ達が、手に手に銃や鈍器などの武器を持ってこちらに走ってきます。 「すみません、僕には時間があまりないようです。適当に魔法をかけますので後は自分の力でなんとか」 「ええっ?」 そう言うやいなや、ポムはイヌマーに何らかの魔法をかけると、桃色のププを召喚して飛び乗り、瞬く間に走り去って行きました。それをエルフの集団が追いかけます。 「くそぉ、パーティに出かけてて留守の家が多いと思ったのに・・・」 「待てぇ、下着泥棒!」 走り去るポムの背中の袋からブラジャーが零れ落ちるのが見えました。イヌマーはしばらく呆気に取られていましたが、なんだか体がむずむずするのに気づきました。 「な・・・何これ!?体が・・・」 数秒の後、イヌマーは華奢なエルフから屈強なタルンへと変貌を遂げていました。 「な・・・なんじゃこりゃぁ!」 喋り方も思わず男らしくなってしまいました。 「うぉっ?」 トナカイの角を生やしたププがイヌマーの体を引っ掛けてソリに無理やり乗せ、走り出しました。 「ど、どこへ行くの?まさかお城?」 「ええ、そうです」 ププが喋りました。 「こんな格好で行けるわけないじゃない!あぁ、それよりもう、お嫁に行けない・・・!」 「ソリの後ろに鈍器が置いてあります。恥ずかしかったら一緒に入ってるマスクをお着けなさい。ガラス製ですけど。なに大丈夫、その魔法の力できっと武道会で優勝できますよ」 「優勝・・・?」 「偽造した招待状も入っています」 イヌマーは招待状を手にとって見ました。 「なにこれ・・・パーティは闘技場で開催・・・舞踏会じゃなくて武道会だったの・・・?」 「ご武運を。猶、魔法は12時に解けます。それまでに勝負を決めてください」 お城に到着したププソリはイヌマーを放り出すように降ろすと、さっさと帰って行きました。 タルンになったイヌマーはこそこそと闘技場を覗き込みました。中では既に血みどろのすさまじい戦いが繰り広げられています。 「そこだ!いけ!よっしゃ、いいぞ!撃て!かわせ!」 観覧席から大声で囃し立てている、ひときわ目立った人物が王子でした。黒光りする鎧に身を包み、ピエロのようなマスクを着けて頭上には金色のメダルを浮かべています。 「俺はいずれエリアッドの国王となる。このマスクはクラウンマスクというそうだな。クラウン・・・つまり王冠だ。親父には早く引退してもらって・・・そして戴冠式でこのクラウンマスクから本物のクラウンへと替える・・・洒落てるだろう?んで、この黄金のメダルは王の象徴だ。どうだ、いいだろう」 隣にいる従者は、「それは道化と言う意味のクラウンでして・・・あと、その金メダルも成金ぽいかと・・・」と思いましたが、口には出さずに、 「王子、参加者の数が武道会開始時の5分の1にまで減りました。負傷者の数は800人に上ります・・・サマナー達も治療で疲れ果てています。このまま続けてよろしいのでしょうか?」 と王子に告げました。 「構わん構わん。次のログウェルとの戦にはぎりぎり間に合うだろ。俺が求めているのは最強の猛者だ。そいつを見つけ出して戦闘指揮官にすれば必ずや仇敵ログウェルを討ち果たし、ロフアイルの3城を占領できるに違いないのだ。戦は勢いだ!度胸だ!テンションの高い者が勝つのだ!おらぁいけぇえええ!」 「それと、先ほど連行したパンダの被り物をつけた一団ですが・・・」 「ああ、あの怪しい奴らか。どうだった?」 「やはりログウェルの者共でした。総司令官も混ざっており、体格その他がわが国が保存するデータに合致しました。武道会の最中での王子の暗殺を目論んでいたようです」 「うむ、やはりな。怪しいと思ったのだ」 「よくお分かりになりましたね・・・」 「ゴッドコラー総司令のあの薄い胸がな・・・巨乳が多いログウェルの中でもひときわ目立つので、見覚えがあったのだ」 「さようで・・・まことにいやらし・・・いや、感服いたしました」 「で、どうした?処分の方は」 「それが、取調べの最中に城を脱け出され・・・アルマンカセの森に隠してあった逃走用のゼプルリーンで逃げられてしまいました」 「なんてことだ」 「申し訳ありません」 「いいさ、奴らはいずれ戦争で正面から叩き潰してやる」 王子は握った拳に力を込めました。 「乳・・・いや、女性で思い出しましたが、もし女性が勝ち残った場合には王子との結婚権が与えられますが・・・本当によろしいので?」 「いいとも。強くて美しい女性ならなんの不満も無い。ただし、あくまで権利を得るというだけだ。強いだけで美しくない者とは結婚しない。俺が拒否する。戦闘指揮官の方にすればいいさ」 「さようで・・・。では、男とも女ともつかぬ者が優勝した場合にはどうされます?」 「なんだそりゃ。つまり・・・オカマってことか?」 「ありていに言えばそうなります」 「そんなの却下だ却下。大体、そんな奴が参加してるのか?」 「ええ、あそこで鈍器を振り回しているタルンがそのようです」 「げ、タルン・・・」 従者が指差す方向には、荒れ狂ったように暴れまわるタルンの姿がありました。「優勝して王子様と結婚よォォォ!」と叫びながら鈍器で敵を殴り飛ばしています。 「目下の優勝候補です」 「まじかよ」 「一家4ひ・・・4人の参加です。見事なチームワークで他の参加者を次々と戦闘不能にしております。かのタルンは一応母親・・・とのことで」 「ぬぅぅ、たしかに強いことは強いが・・・結婚など絶対嫌だし、さりとてオカマが戦闘指揮官となるのは兵士の士気にかかわる・・・よな?うむむ、まずい、まずいぞ」 「ちなみにあの4匹・・・4人のうち、一人はゲイです」 「ど・・・どれだ?」 「あの短パンを履いたタルンでございます」 「うぬぬ・・・きもい」 変な汗を流しながら王子が武道会の行方を眺めているその頃、イヌマーもおどおどしながら柱の影から闘技場を見ておりました。 「あぁ、あれはお義母さんたち・・・あんなに暴れて・・・みっともない・・・」 「あの、武道会参加者の方ですか?」 イヌマーに背後から声がかけられました。 「ひっ!?」 振り返ってみると、スカートの大きい緑色の制服に身を包んだ、銀髪のエルフが立っておりました。手には青く厚い本を携えています。ちょっと背が低めの、スレンダーなかわいらしいエルフです。もっと描写したいけどこのくらいにしておきます。 「招待状はお持ちですか?」 「あ、は、はい」 思わずイヌマーは招待状を渡してしまいました。 「えっと、イヌマーさん・・・あれ?あなたは確かエルフじゃ・・・ご家族は・・・あ、今ご活躍なさってるタルン様たちですね。じゃいいのかしら。記帳に間違いがあったのかな?」 「えと、その・・・」 「まだ参加は可能ですよ。さぁお入りください。うふふ、あなたもお強そうなご立派なお体ですね・・・メイド服とそのガラスのガスマスクがちょっと変わってらっしゃいますけど・・・まぁ、個人の趣味に口を出してはいけませんね。さぁどうぞ」 押し込まれるようにイヌマーは闘技場に入りました。背後で門が閉められます。 「あぁ、どうしよう入っちゃった・・・わたし、こんなことしたくないのに・・・どうしたらいいのかしら・・・」 王子が気づいてイヌマーを見遣りました。 「むっ?今頃新たな参加者か・・・って、またタルンか・・・しかもおネェ喋りに透明なガスマスク、メイド服とは不審な・・・」 「王子、参加者がついにあのタルン一家のみになりました。新しくやってきたタルンはその末っ子のようです」 「おいおい・・・」 イヌマーがタルンになったことなど知らないイヌマーの義母と義兄たちは、イヌマーを他人だと思い込みました。 「なんだ、まだ俺たち以外の参加者がいやがったのか」 「あとは俺たちがわざと負けて母さんが優勝する予定だったのに・・・」 「ふふん、なかなかいい体じゃないか。うほほ」 「どうせあたしらの敵じゃないわ。やっちまうわよ、あんたたち!」 4匹が一斉にイヌマーに飛び掛ります。 「えっ、あの、待って、お義母さん・・・!」 「死ねやぁ!」 義兄の一人が、逃げようとするイヌマーの手を掴んでその頭めがけて鈍器を振り下ろします。 「きゃっ!」 掴まれた手を振り払おうとするイヌマー。 「うぉっ!?」 その瞬間、イヌマーの手を掴んでいた義兄の体が宙に舞いました。投げられた小石のように空高く放物線を描き、タルンの巨体は城の壁に激突してそれきり動かなくなりました。 「な・・・なんて馬鹿力だ!」 続いて襲い掛かろうとしていた義母と義兄たちの動きが止まります。 「あれ・・・ちょっと手を動かしただけなのに・・・これが魔法の力・・・?」 「おらぁ、びびってんじゃないわよ!全員で一気に仕留めるわよ!」 残る三匹が武器を振り上げ、三方から一斉にイヌマー目掛けて突撃してきました。 「こうなったらやるしかないわ!うわぁぁぁ!」 発奮したイヌマーは鈍器をめちゃくちゃに振り回すと、そのすさまじい風圧で竜巻が発生しました。 「こ・・・これは!?まさにワイルド・・・サイクロン!」 「うがぁぁぁあ!」 竜巻は3匹のタルンを呑み込み、そのまま勢いは止まらず、周囲の人々や木々、城の床や壁などを巻き込んで破壊しながらアルマンカセの森の方へと突き進んでいき、やがて見えなくなった頃には闘技場は惨憺たる有様でした。 「あああ、なんてこと・・・」 自分の力に慄き、へたりと座り込むイヌマーでしたが、ゴミのように吹き飛ばされていく義母たちの姿を思い出すと、ちょっと心が爽やかになったのでした。 「み・・・見事・・・だ・・・」 瓦礫の下から這い出てきたヒューマンが呻くように言葉を発しました。 「あっ、王子様・・・!」 駆け寄るイヌマー。 「待て、近づくな!そこにいろ!いいか、俺に近づくな!」 王子はちょっと怯えた様子で後ずさりながら立ち上がり、しかしなんとか威厳だけは保とうとカッコつけました。 「すさまじいパワーだ・・・その力があればログウェルなど一揉みだろう。君を戦隊指揮官に迎えたいものだ・・・本当はちょっと嫌なのだが、その力は欲しい・・・」 「あ、あの、わたし、指揮官になるよりも王子様との結婚を・・・」 王子の顔がちょっと歪みました。 「くそ、やっぱりそっちか・・・。いや、まぁいいだろう。だが」 王子は頭についた埃を払い、髪型を整えるとイヌマーに言いました。 「最後はこの俺と勝負だ。俺に勝ったら結婚してやろう。だが負けたら潔く指揮官となれ。いいな?」 イヌマーは思いました。 「(勝ったら・・・結婚・・・。いける、いけるわ、今のわたしの力なら王子にだって勝てる・・・!)・・・わかりました」 「では、散らかった会場の準備などもあるからして・・・試合開始は20分後の12時ちょうどとする。いいな?」 「えっ」 ピンチです。ププの話によると、イヌマーの魔法が解けるのも12時とのことでした。 「どうしよう・・・12時になったら私は無力になってしまう・・・そしたら勝負には勝てないし・・・あ、でもタルンからエルフに戻ったら試合なんかしなくても王子様は結婚してくださるかしら?そうね、きっとそうなるわ」 「何をブツブツ言っている」 「あ、いえなんでも・・・わかりました、12時ですね」 「うむ。それと条件がある」 「なんでしょう?」 「おい」 「はっ」 王子が呼ぶと、従者が一揃いの鎧を運んできました。 「試合にはこの鎧を着てもらう。俺は全力で行くぞ。激しい戦いになるからな、命を落とさぬよう、そのメイド服ではなく、これに着替えろ」 「これは・・・」 その鎧は、タルンの体格に合わせた、とても重そうな全身鎧でした。兜も顔全体を覆うようにできています。これでは試合開始と同時にエルフに戻っても、その姿を王子に見せることはできないでしょう。 「あ、あの、わたしメイド服でも別に・・・」 「だめだ!これは命令である。全身をその甲冑で覆わなければ試合には出させん」 「そんな・・・」 「さぁ、さっさと向こうで着替えて来い」 イヌマーは兵士に案内されて準備室の方へゆきました。それを見送ると、王子が従者に話しかけます。 「おい、甲冑の細工はちゃんとできたか?」 「はい、特殊な魔法がかけてありますから、試合開始と同時に鎧ごと体を動かなくさせることができます。万が一動けたとしても、もともと非常に重く動きづらい鎧ですし、王子の腕前なら隙を付いて倒すことは可能であろうと存じます」 「ふふふ、そうか。勝てればよいのだ。というか勝たねばならぬのだ。あんなタルンなんぞを娶るなどと考えただけでも恐ろしい。指揮官ならばまだ性格その他の矯正のしようもある。大体、あんな馬鹿力の者とまともに戦うなどできるか」 「御意に」 参加者準備室で、イヌマーは悩んでいました。甲冑を着込んでいったら試合開始と同時に魔法が解けて、そしたら重くて動けないうちにやられちゃうだろうし、かといって今逃げたらもう王子とは結婚できずに一生あの家でいじめられ続けるだろうし・・・。 「あっ、そうだわ!」 イヌマーは何事かを思いついたようでした。やがて兵士が迎えに来て、再び闘技場へとイヌマーが入ります。その姿を見た王子が不満げな顔をしました。 「む?なんだそれは。俺が渡した兜と違うだろ」 イヌマーは体には重苦しい鎧を装備していましたが、頭部にはガラスのガスマスクを被ったままでした。 「すみません、これでないと落ち着かないもので・・・お許し願えませんでしょうか」 透明なガラスのガスマスクなら、12時になって魔法が解けた時にエルフに変わった姿を、王子に気づいてもらえるだろうとイヌマーは思ったのです。 「まぁ・・・兜くらいならいいだろう。重要なのは体が動かないことだしな・・・」 「え?」 「む、なんでもない。さぁ位置に付け。あと3分で試合開始だ」 ぼろぼろになった闘技場には、かろうじて人二人が動き回れるスペースが設けられ、そこに立つ王子とイヌマー以外は少数の兵士と従者だけがおりました。多くの観客や兵士たちは竜巻による傷の手当をうけています。武道会開始時にはまるで昼のように会場を明るく照らしていた照明も、大部分は破壊されたので王子とイヌマーの二人だけをスポットライトのように照らしているばかりの少しさみしい光景です。 「秒読みを開始します。10・・・9・・・」 王子が剣を構えます。 「2・・・1・・・開始!」 時計の針がが12時を指し、試合開始のラッパが鳴らされました。イヌマーは緊張のあまり、鎧にかけられた魔法とは関係なく身動きができません。王子が威勢よく飛び掛ります。 「(ふっ、動けないようだな・・・うまくいったぞ)いくぞ!くらえ、チェインラッシュ!」 「きゃああ!」 その刃の切っ先が鎧に触れる瞬間、イヌマーの姿がタルンからエルフに戻りました。 「むっ・・・?」 エルフの体には大きすぎる鎧は、剣の衝撃を受けてばらばらに崩れます。そして、それと同時に闘技場の照明が消えました。 「なんだ!?」 漆黒の闇に閉ざされた闘技場に再び明かりが灯ったとき、そこにイヌマーの姿はありませんでした。 「どうした?王子の対戦相手が消えたぞ!」 「何が起こった!?」 後には鎧とガラスのガスマスクが残されていました。それをじっと見つめる王子に、従者が駆け寄ります。 「ご無事ですか?どこかお怪我は・・・」 「いや、俺はなんともない。しかし・・・」 「どうされました?」 「俺が切りつけた瞬間、奴の体が急に縮んだように見えた。そしてあのガスマスク越しに見た顔は・・・光の屈折でやや歪んで見えたたが、かわいらしいエルフのものだった」 「どういうことでしょうか・・・?」 「わからん・・・とにかく、すぐに奴を探し出せ!」 「ははっ、しかし兵士たちの大半は武道会で負傷したり負傷者の看護にあたっていますので、今日はできません。明日になればなんとか」 「むむぅ・・・」 その頃、城の近くにあるアルマンカセの森を一匹の桃色のププが疾走していました。その背にはポムとエルフを乗せています。 「あぶなかったですね!なんとか間に合いましたよ!」 「ふがふが」 あの魔法使いのポムとエルフに戻ったイヌマーです。 「すみません、暴れるものだからまた体の自由を奪わせてもらいました。武道会の興奮にあてられたのですね、気の毒に。やっと追っ手をまいた僕が助けに行かなければあなたは切り殺されてしまってたかもしれませんね。よかったよかった」 「もがが!」 あんたが来なければ、わたしはエルフに戻ったわたしに気づいた王子様と結婚できたかもしれないのよ!とイヌマーは怒鳴ってやりたかったのですが、魔法で口が開きません。 「大丈夫、もう心配ないですよ。さっき森でくたばってたあなたのお義兄さんたちを見かけたので、湖に投げ込んでおきました。死んでるといいですね」 「ふがー!」 翌日、イヌマー捜索を命じられた兵士たちが、ナスダイムやビジュミルの各町はおろか森や砂漠にまで出動させられました。しかし、一向にイヌマーの足取りがつかめません。 「どうした、見つからんのか?名前も姿かたちもわかっているのだぞ?」 王子は怒りました。 「しかし、どこにもそんなタルンはいないのです・・・イヌマーの実家も無人です」 「タルンではない、エルフを探すのだ。俺が最後に見た奴の姿は確かにエルフだった。おそらく、何らかの魔法をかけられてタルンになっていたに違いない」 「ははっ・・・」 やきもきする王子の下に、一人の警備兵が報告にやってきました。 「なんだ、見つかったか?」 「いえ、怪しいポムを捕まえまして・・・」 「ポムぅ?エルフだと言っただろうが!」 「それが、町内を捜索していた際、こいつが下着泥棒をしていたのを偶然捕まえたのですが、余罪を追及したところ、自宅に多数のエルフの写真が保管されておりまして・・・国中のあらゆるエルフの盗撮写真のようです」 「なんだその変態は・・・」 「こいつなら何か、王子が捜されているエルフについて知っているかもしれないと愚考した次第であります。なにやら怪しい魔法も使うとか」 「ふむ・・・ちょこっと拷問して取調べよ」 「ははっ」 そのポムはあの魔法使いでした。タルンの警備兵に体の毛を逆に撫でられるという残酷な拷問を受けると、ポムはあっさりとイヌマーの居所を吐きました。イヌマーはポムの自宅の地下室に監禁されていました。 「違うんです、監禁とかじゃないんです。ただちょっとメイドさんが欲しかっただけで・・・」 ポムは意味不明な言い訳をしましたが、聞く耳は持たれませんでした。保護されたイヌマーは王子への目通りが叶いました。 「む、お前があの時のエルフか」 「はい、そうです・・・」 「ガラスのガスマスクを被せよ」 「はっ」 「おお、そのガラスを通して見る微妙な歪み具合、まさにあの時のエルフだ。ふむ・・・魔法で体を変えられていたとはいえ、武道会で優勝し、俺との対決も怖じずに受けた辺り、度胸はあるようだな。美しいし、俺の妃にするにやぶさかではない」 「ほ、本当ですか!?」 「うむ、しかしあれだ、もうタルンになったりはするなよ?あっはっは」 こうして、上手いオチも思い浮かばないまま、王子とイヌマーは結婚して末永く幸せに暮らしたのでした。魔法使いのポムは、王子の結婚による恩赦を受けて刑務所送りは免れ、今では自然豊かなタクシャンの土地でピヨたちとのどかに過ごしているそうです。 湖に落とされたままのイヌマーの義母たちのその後の行方は知れません。タルンなんてどうでもいい存在なのだという教訓です。めでたしめでたし。 |
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| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
うぉぉぉ |
しっこく 2008/11/24 19:34 |
いいんですかこんなのでいいんですか|д・) |
ふれ@管理人 2008/11/24 21:49 |
(´▽`*)アハハ サイコー!! 大爆笑で読ませていただきました。 |
かみーゆ 2008/11/25 12:44 |
楽しんでいただけたようで・・・幸いです|ω・) |
ふれ@管理人 2008/11/25 15:08 |
『ヒューマン最後の日が来るかもしれない、だが今日ではない!』 |
siro 2008/11/25 19:15 |
ちなみに出てくるポムの魔法使いはもちろんFler(ry |
俺流 2008/11/25 21:14 |
>siroさん |
ふれ@管理人 2008/11/25 21:29 |
tadaima,ああ、あの台詞は映画版LoTRで |
siro 2008/11/27 05:12 |
ほむむ、そういう背景でしたか。 |
ふれ@管理人 2008/11/27 10:41 |
今年の直木賞おめでとうございますっ |
犬魔 2008/11/27 18:56 |
どのへんがツボだったのか見当もつきませんが面白かったら幸いです。 |
ふれ@管理人 2008/11/28 01:30 |
誰かが書こうとしてましたが |
しろ 2008/11/28 01:52 |
誰なのでしょう・・・わからない|ω・`) |
ふれ@管理人 2008/11/28 11:49 |
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