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zoom RSS 結託できない三者三様?

<<   作成日時 : 2012/02/12 21:48   >>

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鋼鉄のサマー・スパイダー

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「あれ、芳樹君じゃない。やっほ」

 高校からの帰宅途中、かなめが声をかけたのは、麦わら帽子に半袖半ズボン、手には虫取り網を携え、肩から虫かごを提げた小学生の男の子だった。夏の日差しを浴びて、すっかり日に焼けている。

「うわー、テンプレ通りのいかにもな夏休みの小学生って感じね……」

 かなめは珍しいものを鑑賞するような目で見つめて、感想を漏らす。

「俺はいつものバンダナでいいって言ったんだけどさ……熱射病になるからこれ被ってけ、とか姉ちゃんが言うからよ……」

「ああ、万里ちゃんが……。ああ見えて弟思いだもんね」

 芳樹の姉である阿久津万里は、近所の不良グループを束ねる女番長だ。大柄だが整った顔立ちで、腕っぷしも強く、また仲間の面倒見もいいため、不良たちには尊敬されている。

「なに、カブト虫でも捕りに行くの?」

 芳樹の目の高さに合わせて体を屈めてかなめが尋ねると、宗介が横から訊き返した。

「カブト虫……食うのか?」

 かなめは眉をひそめ、

「んなわけないでしょ……捕まえて飼うのよ」

「そうか……虫などを敢えて捕えるというのは、俺が戦地にいた頃は食料が尽きた時に非常食としての目的くらいのものだったからな……」

「……あんたの異常な経験と一緒にしないでよ」

「虫を食うのは別に異常ではない。東南アジアなど熱帯や亜熱帯の地域では昆虫食は日常的なものだ。それに、なかなか美味いものだぞ。バッタ、セミ、タガメ、カメムシ、蛾の幼虫…日本でも一部の地域ではイナゴやハチの幼虫、また、カゲロウやカワゲラなどの幼虫を今も……」

「だああ!聞きたくないわよそんな話!」

 耳を押さえてかなめが首を振る。

「それからゴキブリやクモなども意外と……」

「やめろって言ってんのよ!」

どこからともなくハリセンを取り出すと、かなめは宗介の頭部にスパーン、と痛烈な一撃を加えた。

「…まぁ、あたしもあんまり興味ないんだけど、なんか小学生の男の子たちはカブト虫とかクワガタとか、そういう虫を夏には捕まえにいくもんなのよ。日本の風物詩ね」

「そういうものなのか……」

 コントを繰り広げるかなめたちに向け、芳樹が先ほどの質問に答えた。

「別に、なんでもいいんだ」

「へ?」

「とにかくすっげーでかくて、かっこいい虫を捕りたいんだよ」

 そう答える芳樹の眼には、何かの決意の色が宿っていた。

「あ、そうだ、相良さん!虫取り手伝ってもらえないかな?」

「俺に?」

「うん、相良さんならなんか、山奥とかジャングルとかそういう所にいる、いろんな虫を知ってそうだから」

「ふむ……たしかに、食用となるものや毒を持つものなどはある程度知っている」

「それに、そういうちょっと危ない所でも、相良さんなら乗り越える方法も知ってそうじゃん。なぁ、俺にもそういうのいろいろ教えてくれよ!」

 確かに宗介のサバイバル技術は人並み外れたものだ。様々な極限の環境で生き抜いてきた経験にも裏打ちされている。もちろん芳樹はそういった宗介の詳らかな過去などは知らないが、子供の直感で宗介の本質をどこか見抜いているのかもしれない。

「いいんじゃない、手伝ってあげたら?」

「なるほど。そうだな、決して楽なことではないが……過酷な自然環境の中で生き残る術を身につけたいというのは見上げた心意気だ。俺にできることならやってやろう」

「あー…ソースケ? 一応聞いておくけど、またラグビー部のときみたいに異常で非情な特訓なんかするつもりじゃないでしょうね……?」

 以前に陣代高校で、気弱なラグビー部員たちを獰猛な戦士へと変貌させた宗介の「特訓」を思い出し、かなめは不安そうに聞いた。

「心配するな。昆虫採集とやらのついでに、基本的なサバイバル技術をいくつか教えるだけだ。まだ……子供だしな」

 そう言った宗介の目には、ほんのわずか影が差したようにかなめには見えた。

「ん……、そう……? ならいいけど……」

「わぁい、やった!」

 芳樹は嬉しそうに、手に持った虫取り網を掲げた。

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−−−

「ここが目的地か?」

「ずいぶん歩いたわね……」

 三人は広い社叢と、それにつづく山林に囲まれた、神社の入口に到着していた。目の前には長い石段が構え、文字は消えかかっているが『霞音神社』と印された神額を掲げた、古ぼけた鳥居が立っている。

「そうだよ、ここにはいっぱい虫がいるんだ」

「それだけ聞くと、ぞわっとする言葉ね……」

 長距離を歩いた疲れも見せず、意欲に燃えた芳樹と、ジト目がちになったかなめ。

「人もろくにいないから、騒いでも怒られることもないしね」

「ああ、肯定だ。」

 意味ありげに同意する宗介。

「しかし、この場所だったとはな。俺がついてきて良かった」

「何? ここ知ってるの?」

 かなめが意外そうに尋ねる。

「ああ……ちょっとな。いや、別に何でもないんだ。その……自然は時として人間に牙をむくことがあるからな。何があるかわからん。こういう森林に分け入る際には注意が必要だと、ただそういう意味だ」

「はぁ……」

 何か言い訳をしているような口調にも聞こえる宗介に、かなめはどこか腑に落ちない気分だったが、

「さあ、行こうよ!」

 と芳樹が勢いづいて石段を駆け上ってゆくので、その後に続いて上り始めた。

「ん?なにあれ……」

 かなめはしばらく上ったところで立ち止まり、石段脇の薄暗い社叢の中を覗き込んだ。そこに立つ木々を繋ぐように、白い紐のようなものがその間に渡されていた。

「注連縄みたいなもんかしら。でもなんか歪ね……ま、いっか」

「どうした、かなめ?」

 先行している宗介も立ち止まって、かなめに声をかける。

「ううん、なんでもない」

 かなめは小走りに階段を上り、宗介に追いつく。更に上の方では、「早く早くー!」と二人を呼ぶ芳樹の姿があった。

−−−

 古びてほぼ廃墟と化した神社本堂の横を通り、杉だらけの社叢を抜けると、雑木林が広がっていた。芳樹は早速、昆虫探しに取り掛かる。

「なんか蛇とか出そうね……」

「マムシなどはいるだろうな。だがこちらから手を出さなければ、大抵は向こうで警戒して距離を取るものだ。とはいえ、注意するに越したことはない。野生動物に限らず、人間の仕掛けるトラップ……そう、たとえば地雷など……にもだ。足元に十分気をつけろ。昔、アフガニスタンで戦友が片足を吹き飛ばされたことがあった」

 大真面目に語る宗介。

「この日本にそんな危険地帯ねーわよ……」

 宗介の、子供とのふれあいを期待したかなめだったが、やはり見当違いの方向に行ってしまうのかと思うと、少なからず気抜けした。そんな二人をよそに、芳樹は早くも数匹の虫を捕えていた。

「ちぇっ、またミヤマクワガタか……」

 普段ならば、捕まえたらかなり嬉しい類のクワガタ虫なのだが、今日の芳樹はそれに喜べない。ぽそりと呟いて、クワガタをそっと木の幹に戻す。

「へぇ、丁寧に扱うんだね」

 その様子を見て、かなめが意外そうに言った。

「あぁ、こいつらだってしっかり生きてるからな。虫取りは人と虫との真剣勝負だぜ」

「ははぁ……なるほど」

 パッと見はただの悪ガキなのだが、姉に似たのか、優しい一面も持ち合わせているらしい。廃墟の病院に住むホームレスを守るために一芝居打ったこともある。

「まあ、俺が勝ちたいのは人間でもあるんだけど。もっとでっかい奴探さなきゃ……」

「あー、友達と競争してるの? 誰がいちばん大きいカブト虫捕まえたか、って?」

 合点がいったかのように、かなめが聞く。

「うん、トモカズなんかさ、コーカサスオオカブト持ってんだぜ! 店で買った奴! ずるいよな、でもかっけぇしさ、それで自慢するから、俺がもっとでっかいの獲ってきてやる、って言っちゃって……負けられねえんだ。あいつ、何かっつーと下ネタ言うのもむかつくんだよな……」

 ぶつぶつ言いながら、芳樹は再び虫探しに取り掛かる。

「なるほどねぇ。でも日本にはその、コーカなんとかって外国のカブト虫より大きいのはいないと思うけど……」

「ふむ、それならスズメバチの巣でも獲っていくか?俺の知る限り、日本で最強の昆虫だ。巣を丸ごと一つ獲っていけば、量でも圧倒できるぞ」

 ぱしん、とかなめのハリセンが飛ぶ。

「子供になんつー危ないもん持たせようとしてんのよ。そういう強さじゃなくて、単純に大きいカブト虫が欲しいってことでしょ」

「なるほど、大きいものが良いということ……か。むっ、芳樹、慎重に歩け! そっちはあまり奥に入ると危険だ!」

 虫取りに夢中になって二人から離れてどんどん先に進もうとする芳樹に、宗介が声をかけ、慌てて後を追う。

「だーいじょうぶだよ!」

 笑いながら返す芳樹。その様子を見ながら、かなめはくすっと笑う。

『たいがい世話焼きなのよね、こいつも。まあ焦らず、こうして日本の子供に少しずつ馴染んでくのもいいかな……。ソースケは小学校の夏休みなんて経験したことなかったんだろうし……』

 と、かなめが思いを巡らせていると、

「うわっ、なんだこれ!」

不意に芳樹が驚きの声を上げた。かなめは声のする方へ向かった。そこには、ヒトくらいの大きさの動物らしき物体が、粘質性の白い紐状のものにぐるぐる巻きにされて、ミイラのように横たわっていた。周囲の木々も、そこかしこに白いものがべたりとくっついている。

「やだ、なにこれ……気持ち悪っ」

 かなめが嫌悪の表情を浮かべる。宗介はその物体に慎重に近づき、観察する。

「……鹿だな」

「鹿っ!?」

「……ああ、骨と皮だけになっているが……ニホンジカの雄だろう。見ろ、角もある」

 鹿の死体と思しき物体は、白い紐状のものに包まれ、かろうじてそこから突き出ている角が、鹿だと認識させる。

「ええっ……どうしてそうなっちゃったの…? もしかして罠? そういえば、石段の横の林にも……」

「いや……こんな罠など見たことはないが……なんというか、これはまるで、蜘蛛の糸のような……」

 その時、三人の背後の繁みで足音がしたのを宗介は聞き逃さなかった。人間か、あるいは野生動物か。振り向くと林の陰に、ずんぐりとした大きな生物らしき影がかすかに動いていた。

「熊? いや……なんだ……あれは?」

 宗介が背後へ向けている視線に気づき、かなめと芳樹も振り返る。しばしの沈黙の後、かなめが短く悲鳴を上げた。

「く……蜘蛛……ッ!?」

 あまりに巨大ですぐにはそれと認識できなかったが、それはドラム缶ほどの大きさもある大蜘蛛だった。白い胸、黄色と黒の縞模様の腹、その本体のサイズに相応な、鉄パイプを繋げたかのような八本の足。カメラのレンズのような、そして実際そのくらいの大きさの八つの単眼。その焦点はわからないが、こちらを向いて警戒しているように見える。

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「い……いやぁぁぁあああーーーー!!」

 嫌悪も露わに、かなめが叫び後じさりする。宗介は制服の下に隠してあった愛銃のグロック19を抜き放ち、構えた。

「日本にはこれほどの蜘蛛が存在していたのか……驚異的だな」

「いないいない! おかしいわよこれ!」

「す……すっげえ……」

 宗介の背中に隠れるようにして怯えるかなめの横で、芳樹は目をキラキラと輝かせていた。

「相良さん、これ捕まえたら俺学校で一番だよ……!」

「ふむ……そうだろうな、しかし……」

 巨大な蜘蛛が動きを見せた。最初、口の横の蝕肢をピクリと動かせたかと思うと……その巨体には意外なほどの素早さで宗介たちに迫り、ぐっと体を起こすと、腹部の先端を三人に向けた。

「……危ない!」

「ひあっ……」

 宗介はかなめと芳樹を抱えて横に飛んだ。直後、それまで宗介たちがいた場所に、大蜘蛛が放出した糸が襲い掛かった。一瞬で木が粘性の糸に巻かれ、真っ白になる。

「走れ!」

「なにあれ! あんなのに巻かれたらどうなっちゃうの!?」

「窒息するかもしれんな。しかしそれより恐ろしいのは、捕えた獲物に鋏角という鎌のような器官を突き刺し、毒を注入した後に消化液で肉体の内部から溶かしてその汁を……」

「いやぁ! 聞きたくない!」

「先ほどの鹿もそうして食われたのだろうな。あんなやつが棲んでいたとは……知らなかった」

「相良さん、あれ捕まえられない!?」

 冷静な宗介、青ざめるかなめ、興奮した様子の芳樹。三者三様だが、とりあえずはひとかたまりになって逃げている。

「無傷で捕獲するのは困難だろうな……」

「てゆーか狙ってきてるわよ! むしろあたしたちが捕食される側! 食べるつもりじゃないの!? 溶かされるなんて死んでもやだからね!」

「では倒すか」

 そう言うと、かなめと芳樹を背に、宗介は振り向きざま、大蜘蛛に発砲する。

「何っ……」

 宗介のグロックが放った弾丸は、瞬間的に放出された無数の糸に阻まれ、本体まで到達しなかった。木と木の間に橋のように渡された糸に、弾丸がへばりついている。

「うそっ、銃弾が効かないの!?」

「クモの糸の強度は、同じ太さであれば鋼鉄製のワイヤーなどより遥かに高いそうだ。鉛筆程度の太さの糸で作られた巣ならば、理論上は航空機をも受け止められるとか……更には400度の熱にも耐えるという」

「へえ、すごいのね……って、感心してる場合じゃないわ! どうやって倒すのよ!?」

「ふむ……」

 宗介は大蜘蛛が入り難そうな繁みを潜り抜けて距離を取ると、服のどこかから取り出した手榴弾を大蜘蛛めがけて投擲した。と同時に、「伏せろ!」と叫び、かなめと芳樹の背を押さえて、繁みにうずくまる。直後に空気を響かす爆発音と衝撃。

「倒したの!?」

「しっ、静かに。声を立てるな、身動きもするな」

 三人は息を潜め、小声で会話をする。

「クモの脚には、節々に琴状器官というセンサーがある。この器官で音を聞き分けたり、自身の体や巣の揺れを感知しているそうだ。動くとこちらの居場所が探知される可能性がある」

「よく知ってるわね……」

「先日、生物の資料集で学習した。こいつはコガネグモとかいう種類だったか……しかし、コガネグモは造網性だったはずだが……」

「ゾーモーセイ?」

「網を張る種類ということだ。そして獲物がかかるのを待つ……だがこいつは地面を這って捕食しようとしている」

「あんだけでっかいと、巣なんて張れるところなんてないんだろうな……」

 芳樹は同情をこめたように言った。宗介は音を立てぬよう注意を払いながら、静かに繁みの間から大蜘蛛の様子を確認する。先ほどの手榴弾の煙が晴れると、木々に絡みついた大量の糸と、まるで無傷の大蜘蛛が見えた。耳を澄ますかのようにじっとしている。

「やはり駄目だったか……。現状の装備では倒しきれん。あの糸に捕まったが最後、脱出は不可能だろう」

「どうすんのよ……?」

「殺すしかないのかよ、相良さん?」

 それぞれの思惑で不安そうな二人を眺め、宗介は安心させるように言った。

「問題ない。奴がいたのがこの場所で幸いだった」

「どういうこと?」

「極力、生け捕りにするよう努めてみる。ここを動くなよ」

そう言い残すと、宗介は単身、繁みから飛び出した。

「ちょっ、ソースケ!?」

「こっちだ!」

 発砲しながら、大蜘蛛の気を引くように宗介はどこかへ向けて走ってゆく。その様子を不安そうに見守りながら、かなめと芳樹は宗介に言われた通り身動きひとつせず待っている。

「よし……そのままついてこい」

 宗介と大蜘蛛は神社の本堂まで来ていた。そして折を見て宗介は、もう一発の手榴弾を投擲し、大蜘蛛の足を止め、本堂の中へ飛び込んだ。やがて爆発時の煙が晴れた頃……本堂からひとまわり大きく、丸くなった宗介が現れた。

「ふもっふ」

 構えたマシンガンと、装備したその他もろもろの火器にまるで似合わぬ、犬のようなネズミのようなキュートな風貌の着ぐるみ姿、音声変換器から漏れるかわいらしい鳴き声。その点を除けば、攻守完璧と宗介の誇る、灰色のボン太君スーツ(量産型)だった。

「さぁ、戦闘開始だ」

 宗介のマシンガンが火を噴き、山の上の神社の境内は戦場と化していった。

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−−−

「……なんだか、派手にどんぱちやってるみたいね……」

「大丈夫かな、相良さん……」

 身を潜めたままの二人は、宗介が消えてからしばらくして盛大に始まった銃声やら爆発音やらを不安げに聞いている。

「ソースケのことだからきっと大丈夫だと思うけど……あっ、見えた」

 銃声がだんだんと近づき、二人の視界に熱戦を繰り広げる二匹の姿が入ってきた。

「って、ボン太君!?」

 宗介扮する遊園地のマスコットキャラクターは、短い足にもかかわらず尋常ならざる動きで木々の間をすり抜け、発砲している。そしてその銃弾を瞬時に放出する糸で防御しつつ、ボン太君を追いかける大蜘蛛。相当にシュールな光景だ。

『いかん……強い! すまない、芳樹、やはり生け捕りは不可能だ!』

 宗介はそう叫んで芳樹に伝えたつもりだが、音声変換器のせいで「ふもっ、ふもふも、ふもっ!」という、間の抜けた鳴き声になってしまう。

「……ふもっ!?」

 二人の居場所を確認するために視線を逸らした刹那、大蜘蛛が放った糸が、ボン太君の足を捕えた。よろめく宗介。瞬く間に、二重、三重の糸が襲い、銃器にも絡みつき、ボン太君の動きが完全に止まる。

「ああっ、危ない! ソースケっ!?」

 宗介の危機を感じたかなめと芳樹が、せめてもの武器とばかりに木の枝や石を手に取って、繁みから飛び出しかける。

「ふもふも、ふもっふ! (下がってろ! 問題ない!)」

 宗介は身振りで二人を制止する。

「……ふもっ! (よし来い、そこだ!)」

 とどめとばかりに大蜘蛛が宗介へと接近し、足の先が地面のある場所に触れた瞬間……その地点が轟音を立てて爆発した。地雷だ。蜘蛛は防御のための糸を出す暇もなく、まともに爆風を食らって足は根元から吹き飛び、胴体は3mほど突き上げられ、太い木の枝にぶつかると落下して動かなくなった。

「ソースケ!」

「相良さん!」

 かなめと芳樹が飛び出し、宗介に駆け寄る。

「ふも……ふもっ、ふもる」

「もういいからそのスーツ脱ぎなさい」

 かなめに促され、宗介はボン太君の頭部を外す。

「手強い相手だった……。やむを得ず殺してしまった」

「ううん、しょうがないよ、相良さんが無事でよかった」

 ほっとした表情の芳樹。

「そうか……すまない。……ともあれ、どうにか地雷原に誘き出せたのが幸いだった」

「でも……こいつもかわいそうだな」

 ぼろぼろになって息絶えた大蜘蛛を見やって、芳樹が目を伏せる。

「……アメリカ軍は防弾チョッキなどの装備に利用する目的で、バクテリアにクモ糸を作り出す遺伝子を組み込み、糸を作らせるのに成功したというが……こいつもどこかで行われた何らかの研究の産物だったのかもしれんな……。 ……残念だ、生かしたまま捕獲できれば、”ミスリル”で有効活用できたかもしれん……」

足に絡みついた糸をナイフで苦労して切断しながら、宗介がそんな感想を漏らした。

「……んなことまでしてたら、いっそう怪しい秘密機関になりそうね……。なんつーか、悪の秘密結社?そのうち怪人でも作り出しそうな……。それはさておき」

「なんだ?」

「地雷原ってあんた……ここにもそんなもの仕込んでたわけ……?」

 かなめのこめかみに浮かんだ青筋に気付かぬ様子で、宗介は平然と説明を始める。

「ここは滅多に人が来ないのでな。それまでも本堂の地下を量産型ボン太君の隠し場所として使っていた。先日取り寄せた新型の地雷を試したかったので、昨夜あらかじめ埋めておいたのだ。そのまま試験したかったが、昨夜は今日の授業の課題もやらなければならなかったからな……。念のため、人が踏み入りそうな場所には埋めてはいないつもりなのだが……しかし子供が虫取りに来るとなると、ここはもう使えなさそうだ」

「芳樹君を注意してたのもそのせいか! あんたがこの場所を危険地帯にしてんでしょーが! この馬鹿!」

 ボン太君スーツの胴体部分に首がすっかり埋まるほど、かなめは宗介の脳天にきついハリセンをぶちこんだ。縦に。

「い……痛いぞ……なかなか……いや、かなり……効いた」

 痛みに耐えかねるかのようにうめく宗介。

「さっさと残りを撤去しなさい! 今すぐ!」

「了解した……。 ん……そういうわけだ、すまない芳樹、虫取りにはこれ以上付き合えなくなってしまった」

 頭にどでかい十字の絆創膏を貼った宗介は、ばつが悪そうに謝った。芳樹もやや残念そうだったが、目を上げると、

「いや、いーよ。珍しいもん見れたし。それにしても、やっぱ相良さんはすげーや。かっこよかったぜ」

と笑いながら宗介に言った。

「そうか……? ……ふふ」

 子供に素直に褒められたのが嬉しかったのか、めずらしくも、こそばゆそうに宗介は小さく笑みを浮かべた。そして思いついたように、

「そうだ、代わりといってはなんだが、あれでも持っていくか?」

「え、何?」

宗介はボン太君の首を地面に置くと、いずこかへと歩きだし、やがて木の枝のようなものを手にして戻ってきた。

「あっ、鹿の角!」

「ああ、さっきの鹿の死体から頂戴してきた。なんというか、その……角の大きさならカブト虫を遥かに凌駕していると思うのだが……」

 かなめは、『そういう趣旨じゃないと思うんだけど……』と思ったが、口を挟まずにおいた。

「うん、これいいよ! すっげえ! 誰も持ってないよこんなの!」

 立派な鹿の角を両手に掲げ、目を輝かせて喜ぶ芳樹の姿を見ると、宗介はほっとしたように僅かに口元を緩めた。その宗介の様子を見て、かなめも少し楽しそうに微笑む。神社の境内には夕日が差し込み、気づくとヒグラシの鳴き声が静かに響いていた。

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−−−

 その日の夜、人気のない荒れ果てた神社の境内に、懐中電灯を持った二、三人の怪しげな人の姿があった。

「ああ、やっぱり死んでる……」

「さすが軍曹……」

「まさか実験用マウスが開けた穴からこいつまで逃げるとはなあ……。しかも巨大化してるし……」

「こんな危険な生物になってしまうとは。しかたない、また一から研究をやり直そう……」

「ガラスまで食い破るようになってしまったネズミについても考え直さんとなぁ……」

 彼らは疲れた様子で大蜘蛛の死骸を集めると、ライトバンに乗せてどこかへと消えていった。



おわり



夏に考えてた、フルメタル・パニック!の二次創作SSでした。マウスケ作った研究機関ってどこだったっけ…。

「マジで危ない九死に一生?」はまだ読んでません。なんか、これで本当に終わりなんだと思うと、怖いような気がして…、ヤですね。SBMのときは、まだ短編出るんだろうなと思ってたけど。いや、あるいはあれで完全にお別れできた気がしたのかも。「枯れない花」とか聞くともう本編とリンクしちゃっていまだに涙がこらえきれない。

アナザーは…どうなんでしょうね。別の意味で怖くて買えない。





DVDBOXも、BDも買い逃してしまった…。頼むからもう一回販売して欲しい…。でもDVDは単品でもう半分集めちゃってるしなぁ…どうしよう。しかもこの前、間違って同じ巻買ってしまって……どうしよう…

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
うん、おもしろい!
ふれさん才能あるんだから、そろそろ妄想全集を
編集して自主出版してください!
え、も、も、も、もちろんかいますry...
kenken
2012/02/16 18:20
あら、ありがとうございます( ・ω・)
読んでくださるとは…っ!
もし面白かったのならば、それはひとえに原作の大いなる力によるものです。いちばん好きなラノベです。アニメもすごくいいのです。先日もコメディ編の「ふもっふ」をDVD見返したのですけども、原作のシリアス編知ってるからか、なんかもう、笑うために見たのにOP聞いたら泣けてちゃって、これはもう愛なのではないかと(以下略

妄想全集は僕の心の本棚の奥の方にしまいこんであります。人目にさらしたら焚書されてしまいかねないので。
Flerov
2012/02/16 18:35
原作面白いですね〜(^^
私はアニメ派ですが(^w^
しかし全集が出ないのは残念だ。
こころの妄想に今度時限爆弾を仕掛けて、
妄想暴走するようにしておきますね。(カチッw
kenken
2012/02/16 19:05
「下がれ! 爆弾だ!」
 宗介に制され、かなめはビクッと足を止める。
「時限式か……しかもこれは……」
 コードの間に、折り畳まれた紙片がこれみよがしに挟まれている。起爆装置に影響するものでないことを確認すると、宗介はそれをつまみ出して開いた。
『この変態の妄想を暴走させるための爆弾だよ。君がこのメモを読む頃には、あと5分くらい残ってるかな。びくびくしながら最期の時を待つがいいよ。でも希望を残しておいてあげる。赤か青のコード、どちらかを切れば爆発しないよ(はぁと) ポム・ボマーことkenken より』
 人をおちょくった文面だが、その内容に宗介は戦慄した。
「卑劣な……だが、くそっ、俺には他の方法でこの爆弾を解体する技術はない……」
「そんなに大変なことなの……? その、暴走ってのが」
 かなめが不可解そうに尋ねる。
「肯定だ。Flerovなどという猿以下の知能と日本の政○家以下の無責任さを備えた変態が暴走などしたら……手が付けられん……破滅だ」
 固く目を閉じて苦悩する宗介。
「一体、どうなっちゃうの……?」
 その様子を見て、にわかに不安を感じるかなめ。
「Flerovの社会的立場が……崩壊する。修復は……一国の国家予算を以てしても不可能だろう」
「……別にいいんじゃない? あたしら関係ないし」
「それもそうだな」
 数秒前まで深刻な顔をしていた宗介はあっさり納得し、新聞入れの朝刊を取るみたいに無造作に、ニッパーで赤いコードをぷちんと切断した。
 その後の事は……続きはwebで。
Flerov
2012/02/16 22:58

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